ハイランドウイスキー

広大な大地が育む「ハイランド」の魅力と、硬水が魅せる傑作グレンモーレンジー

著者: hik

スコッチ最大の広大な郷「ハイランド」を巡る

前回ご紹介したスコットランド南部の「ローランド」から、さらに北へ。
ウイスキーの故郷を語る上で絶対に外せないのが、広大な面積を誇る「ハイランド(高地)」地方です。

時代の潮流の中で惜しまれつつ閉鎖された蒸留所も少なくありませんが、この地にはかつて43もの個性豊かな蒸留所が独自のウイスキー造りに情熱を注いでいました。
その広大さゆえに、ハイランドのウイスキーは東西南北の4つのエリアに分けて語られることが多く、それぞれに全く異なる表情を見せてくれます。

まずは、ハイランドを代表する銘酒たちとともに、その地理的な多様性を紐解いてみましょう。

東西南北、4つのエリアが魅せる個性

ハイランド全体の味わいの傾向としては、一般的に「甘くやわらかで、比較的軽やかに愉しめるものが多い」という印象を持たれています。
しかし、エリアごとに細かく見ていくと、その懐の深さに驚かされます。

  • 北ハイランド(North):グレンモーレンジー
    • ハイランドの最高峰とも評される、華やかでエレガントなモルトの代名詞。
  • 東ハイランド(East):グレンドロナック / ロイヤルロッホナガー
    • シェリー樽熟成の重厚なコクが際立つグレンドロナックと、ヴィクトリア女王に愛され「ロイヤル」の冠を戴いた格式高いロイヤルロッホナガー。
  • 南ハイランド(South):グレンゴイン
    • ピート(泥炭)を一切使わずに麦芽を乾燥させ、麦本来の甘みを極限まで引き出したクリーンな味わい。
  • 西ハイランド(West):オーバン
    • 海風の影響を受け、ほのかな塩気とピート香が溶け込んだ、力強くも調和のとれた味わい。

このように、一つの地方でありながら、山の息吹から海の香りまでを網羅しているのがハイランドの最大の魅力です。

私のお気に入り、グレンモーレンジーが美しい理由

そんな数ある名門の中でも、私が特に愛してやまないのが、北ハイランドの雄「グレンモーレンジー」です。

バーのバックバー(ボトル棚)でもひときわ目を引く、あの流れるように美しいなだらかなボトルのデザイン性。
そのスタイリッシュな佇まいは、ウイスキーに詳しくないお客様の心をも一瞬で掴む魅力を持っています。

しかし、グレンモーレンジーの本質は、その美しい外見の奥にある「徹底したこだわり」にあります。

ポットスチル

スコッチには珍しい「硬水」という魔法

スコッチウイスキーの蒸留所の多くは、仕込み水に「軟水」を使用します。
軟水で仕込むことで、なめらかでピートの個性が引き立ちやすいウイスキーが生まれるからです。
ところが、グレンモーレンジーが使用する「ターロジの泉」の水は、スコッチとしては極めて珍しい「硬水(ミネラル分が豊富な水)」なのです。

硬水で仕込まれた原酒は、本来であれば骨太で力強い味わいになりがちですが、グレンモーレンジーはここに見事なマジックをかけます。
スコットランドで最も背の高い、キリンの首ほどもある蒸留器(パゴダ)を使用することで、重い成分を徹底的に排除し、軽質で華やかな成分だけを抽出するのです。

硬水由来の豊かなミネラル分と、高背の蒸留器がもたらす究極のクリーンさ。
この相反する要素が奇跡的なバランスで融合することで、あの「完璧すぎるほどにフルーティーで、甘くやわらかな」唯一無二の液体が完成します。

珍しい硬水

結びに:今夜、ハイランドの風を感じる一杯を

ウイスキー初心者から、数々のボトルを飲み尽くした愛好家まで、すべての人を優しく包み込んでくれるハイランドのウイスキー。

もし今夜、バーのカウンターで何を飲むか迷ったら、ぜひグレンモーレンジーを指名してみてください。
グラスに注がれた美しい黄金色を眺めながら、その奥にある「硬水の秘密」に思いを馳せれば、いつもの一杯がさらに深く、贅沢な味わいに感じられるはずです。