アイラウイスキー3種

【スコッチの聖地・前編】なぜ人は「アイラ」に狂うのか?正露丸とピート、3大巨頭のロジック

著者: hik

旅の終着駅、愛され嫌われる「アイラ島」の魔力

ローランドから始まったスコッチウイスキーの産地巡りも、ついに最終目的地へと到達しました。
ウイスキーを愛する者が最後に必ず行き着き、そして二度と抜け出せなくなる底なしの聖地――それが「アイラ島(Islay)」です。

アイラモルトの最大の特徴といえば、グラスを近づけた瞬間に誰もが驚く、あの「正露丸」や「薬品(ヨード香)」を思わせる強烈なフレーバー。
初めて飲む人は「なんだこれは!」と顔を顰(しか)め、しかし気づけばその刺激の虜になってしまう、唯一無二の魔力を持っています。

今回は、あまりにも深く、語るべき名門が多すぎるこの聖地を「前編」「後編」の2回に分けてトコトン掘り下げていきます。
まずは、アイラがこれほどまでに尖った個性を持つに至った自然のロジックと、島を代表する3大巨頭から紐解いていきましょう。

泥炭(ピート)と赤茶色の水がもたらすロジック

アイラ島は、常に大西洋の荒波と強い潮風に晒されています。この過酷な気候が、アイラウイスキーの核となる「ピート(泥炭)」を育てました。

島の大地を厚く覆うピートには、何千年もの時間をかけて蓄積された海藻や苔が大量に含まれており、これが独特の「薬品のようなヨード香」の元となります。
さらに、大麦を乾燥させる際だけでなく、ウイスキー作りに欠かせない「仕込み水」そのものが、このピート層を潜り抜けて湧き出るため、アイラの水は独特の「赤茶色(琥珀色)」を帯びています。

大地の恵み、水、そして海風。
すべてがスモーキーでピーティになるように設計された島、それがアイラなのです。

ピート層を通った茶色い仕込み水

アイラを牽引する3大巨頭

バーのバックバーには必ずと言っていいほど全種類が並んでいる、アイラを語る上で絶対に欠かせない3つの個性を解説します。

1. 好き嫌いを強烈に二分する王道:「ラフロイグ(Laphroaig)」

「アイラモルトの王者」とも称されるラフロイグ。
そのキャッチコピーは
「Love it or Hate it(愛するか、激しく嫌うか)」。
薬品のような消毒液の香りが最もエッジの効いた形で表現されており、口に含むとオイリーで濃厚な燻製香が広がります。
しかし、その奥にあるバニラのような甘みのギャップに気づいたとき、嫌いだったはずの香りが
「なくてはならないもの」へと変わるのです。
チャールズ国王が皇太子時代から愛飲し、英国王室御用達を授かったことでも有名です。

2. ピーティの極限、繊細なる狂気:「アードベッグ(Ardbeg)」

アイラの蒸留所の中で、最もピートの燻蒸(くんじょう)が強く、最もスモーキーと言われるのがアードベッグです。
これだけ聞くと
「ただ煙たいだけのお酒」に思えるかもしれませんが、アードベッグの真の凄みは、その強烈な煙の裏側に隠された
「レモンのような柑橘類の爽やかさ」と
「繊細なクリーンさ」のロジックにあります。
ヘビーでありながら極めてスタイリッシュ。
世界中に熱狂的なファン(通称アードベギャン)を持つ、中毒性の高い1本です。

3. アイラの女王、完璧なるバランス:「ボウモア(Bowmore)」

強烈な2つの個性を前に、
「まずはアイラの門を叩きたい」という方にプロが最初におすすめするのが、島で最も古い歴史を持つボウモアです。
「アイラの女王」と呼ばれる通り、ラフロイグやアードベッグほどの暴力的なピーティさはなく、上品な潮風の香りと、気品あるフルーティーな甘みが完璧なバランス(シンメトリー)で調和しています。
荒々しさと優雅さを併せ持つ、まさに女王の名にふさわしい逸品です。

前編の終わりに:聖地の入り口に立って

赤茶色の水と、海草を含んだピートの炎。
これらが混ざり合うことで、アイラウイスキーは単なる飲み物を超えた「液体のアート」へと昇華します。

今夜はまず、バーのカウンターでこの3大巨頭のどれか1杯を注文し、その洗礼を受けてみてください。

次回後編は、アイラを支える実力派「カリラ」「ラガブーリン」、新進気鋭の「キルホーマン」、そして幻の伝説「ポートエレン」へとさらに深く潜っていきます。どうぞお楽しみに。

ウイスキーとピート香