
「メニューにない注文」のスマートな境界線。ホテルクオリティが守る、できること・できないことの裏舞台
ホテルの「基本は断らない」というスタンス
一流ホテルのラウンジやバー。
メニューを開いたものの、「少しだけ自分好みに変えてもらえないだろうか」と思ったことはありませんか?
「サンドイッチのこの食材を抜いてほしい」
「ベーコンやサーモンを追加してほしい」
「パンは焼かずに、量も半分に」
「セットのハーブティーを、アイスで単品として頼みたい」
実は、私が働いていたホテルラウンジでも、こうした「メニュー外のオーダー(スペシャルオーダー)」は、基本的には「できる限りお応えする」というスタンスをとっていました。
あまりに多くのご要望をいただくため、メニューに載っていなくても、裏ではすでにそれに応じた細かな料金設定が組まれていたほどです。
では、ホテルにおけるメニュー外オーダーの「できる・できない」の境界線は、一体どこにあるのでしょうか。

境界線を決める2つの基準:「人」と「時間」
スペシャルオーダーが通るかどうかの基準は、大きく分けて2つあります。
それは「誰が対応するか」と「どれだけの手間・時間がかかるか」です。
最初にお客様と接するスタッフが、経験の浅いアルバイトである場合、過去に実績のない特注を受ければ、当然「確認してまいります」となります。
ここで社員や熟練のバーテンダーが裏で判断を下すのですが、その際の判断基準は極めてシビアです。
NGとなるケースの多くは、以下の理由によるものです。
- 【クオリティの担保ができない】:
アレルギーへの完璧な配慮が難しい場合や、ホテルの名に恥じない「味のクオリティ」を保証できない時。 - 【業務が回らなくなる】:
その1杯、1皿を作るために膨大な手間と時間がかかり、他のお客様へのサービスが滞ってしまう時。 - 【継続性の負担】:
「今回だけ特別に」で作ってしまうと、次回ご来店時や、別のスタッフが対応した際に同じものを提供できず、結果的にお客様を落胆させてしまう時。

「ある」ことと「提供できる」ことは別
もし尋ねてみて断られたとしても、
「さっきあの食材が見えたのに、なんでできないの?」と詰め寄るのは、少し野暮というものです。
厨房に食材があることと、それをホテルクオリティの料理やドリンクとして安全に、かつ迅速に提供できることは全く別問題だからです。
裏では、プロとしてのプライドと、ラウンジ全体のサービスを守るための高度な計算が働いています。
スマートに楽しむためのコツは、まずは一言、「こういうことは可能ですか?」と、軽やかに相談してみること。
できることであれば、ホテル側は全力であなただけのための特別な1品を仕立ててくれます。
もし断られたら、「なるほど、今回は難しいのだな」とスマートに引き下がる。
その心の余裕こそが、ラグジュアリーな空間に最も馴染む、美しい客の作法(エチケット)です。