
4mmのレモンに魂を込めて
華やかなカウンターの裏側、朝4時の静寂
私のバーテンダーとしてのキャリアは、2010年、都内のある老舗ホテルから始まりました。
バーカウンターのライトに照らされた華やかな世界に憧れて入ったその場所は、想像を絶する「職人の世界」でした。
毎日、朝4時や5時に起き、誰よりも早く準備を整える。
先輩たちの仕事を間近で見ながら、その一挙手一投足を盗み、指導を仰ぐ日々。
カウンターに立つことは「目標」ではなく、厳しい修練の果てにようやく許される「聖域」だったのです。
「カウンターから出される」という恐怖と、数百のレシピ
バーテンダーとして独り立ちするためには、いくつもの高い壁がありました。
- ・数百種類に及ぶカクテルレシピの完全暗記
- ・1オンス(約30ml)を正確に注ぎ分ける「目切り(オンス切り)」の精度
- ・シェイクやステアの技術。先輩や管理職からの厳しい承認。
- ・そして何より、お客様との会話。
「出ていいよ」 そう言われ、実際に会話についていけなければカウンターから出されることもありました。
多種多様なお客様が訪れるホテルのバーでは、お酒の知識以上に「人間力」が試されていたのです。

転機は入社2年目。初めて「お客様の口に入るもの」を
入社から約2年が経った頃、ようやくサブとしてカウンターに立つことが許されました。
しかし、そこはさらに過酷な戦場でした。
レシピが少しでも曖昧だったり、提供が数秒遅れたりすれば、即座に交代させられる緊張感。
そんな日々の中で、今でも鮮明に覚えている「初仕事」があります。それはカクテルではなく、添え物の「スライスレモン」でした。
ホテルの美学において、スライスレモンの厚みが1mmでもズレれば、それはすべて廃棄対象。(絞りジュース行き)
完璧なものだけが、お客様の前に並ぶことを許されます。
「私が切ったレモンが、お客様の口に入る」 たったそれだけのことが、震えるほど嬉しかった。
プレッシャーに押しつぶされそうな毎日でしたが、それ以上に、自分の手でお客様に何かを提供できる喜びが私を支えていました。
一日数百杯の提供、そして今
やがて独り立ちし、一日に数百杯のカクテルを作るまでに成長しました。
ホテルマンとして、カウンター外の接客も含めた全方位のスキルを求められる環境は、私に「バーの本質」を教えてくれました。

話したいことは山ほどありますが、今回はこのあたりで。
このブログでは、私が10年間の緊張感の中で培ってきた「お酒の真髄」や「バーの楽しみ方」を、少しずつ紐解いていければと思います。