所作

「おっ、通だな」と私たちが密かに感銘を受ける、お客様のさりげない振る舞い

著者: hik

「通」とは、知識の量ではない

よく「珍しいウイスキーを知っている」「カクテルのレシピに詳しい」ことが「通」だと思われがちですが、バーテンダーの視点は少し違います。
私たちが「この人、通だな」と感じるのは、知識のひけらかしではなく、その場に馴染む「振る舞い」の美しさにあるのです。

注文までの「間(ま)」が心地よい

入店してすぐ、メニューも見ずに「マティーニ」と頼むのは、一見かっこよく見えます。
しかし、本当の通はまず「お店の空気を読む時間」を大切にします。
お絞りで手を拭い、一息ついてから、ゆっくりとメニューを開く。
あるいは、バーテンダーが他のお客様のオーダーで忙しそうなら、そっと視線を外して待つ。
この「待てる余裕」こそが、バーという空間を深く理解している証拠です。

「味の変化」を楽しんでいる

カクテルが提供された瞬間、すぐに飲み干してしまうのではなく、まずは一口飲んで、少し時間を置いてからまた一口。
氷がわずかに溶けて味が開いていく過程や、手の温度で変化する香りをじっくりと味わっている姿を見ると、「お酒そのものと対話しているんだな」と嬉しくなります。
私たちはその様子を見て、2杯目の提案をさらに高いレベルへ引き上げようと準備を始めます。

マティーニを飲んでいるグラス

グラスの置き方が静か

これは非常に細かい点ですが、飲み終えたグラスをカウンターに置く際、音が全くしないほど静かに置くお客様。
これは、バーの静謐な環境を壊さないという「周囲への配慮」であり、バーテンダーや他のお客様への敬意でもあります。
その静かな「カタン」という音(あるいは無音)に、私たちはその方の品格を感じ取るのです。

「任せる」勇気を持っている

自分の好みを2〜3単語(「さっぱりしたものを」「今日は少し重めで」など)だけ伝え、あとは「お任せします」と委ねてくださる方。
これは、バーテンダーの技術を信頼してくださっているというメッセージです。
その信頼に応えようと、私たちは持てる知識を総動員して、最高の一杯を仕立てます。

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結びに

バーでの「通」とは、バーテンダーにとって「話しやすい、かつ、お酒を大切にしてくれる人」のこと。
背伸びをする必要はありません。空間を楽しみ、お酒を慈しむ。
その自然体な姿こそが、何よりも「通」に見える近道なのです。