
視線は雄弁に語る。カウンターという舞台を支配する「立ち姿」の美学
脳内は常にフル回転。「同時並行」の極意
バーカウンターに立つとき、私の脳内は常に複数のタスクで埋め尽くされています。
目の前のお客様と楽しく会話を交わしながら、視線の端(周辺視野)ではフロア全体のグラスの空き具合を把握し、さらに頭の中では次に入るであろう3手先、5手先のオーダーの手順を組み立てる。
これは最初からできることではありません。
私の場合、例えば20名の団体客への提供と、カウンターのお客様への接客を同時にこなすような過酷な現場を繰り返す中で、少しずつ体が覚えていきました。

言葉を使わない「真剣な眼差し」という意思表示
もちろん、オーダーが非常に細かく、会話に意識を割く余裕が全くない瞬間もあります。
そんな時、プロは安易に「少々お待ちください」とは口にしません。言葉で断るのは、格好がつかないからです。
代わりに、私は少しだけ「真剣な眼差し」をシェイカーやグラスに向けます。
すると不思議なことに、お客様もその空気を察して、そっと会話を止めて見守ってくださるのです。
雰囲気を上手に使い、お客様と「沈黙の合図」を交わす。これも大切な技術の一つです。
静寂さえも「舞台」にする。ボトルを磨く指先
店内が静まり返り、オーダーも落ち着いている時、バーテンダーは何をしているのか。
私たちは、決してただ突っ立っているわけではありません。
グラスを磨き、ボトルを拭き、フルーツをカットする。
その一つひとつの動作すら、お客様にとっては一つの「舞台」であり、バーの景色の一部です。
ボトルの磨き方一つにも決まりがあります。
ただ布を当てるのではなく、ボトルを弾きながら、ラベルを傷めないよう細心の注意を払って磨き上げる。
そうして常に「物」を慈しむ姿が、バーの品格を作ります。

結びに
バーテンダーの立ち姿には、その人の経験と、その夜の空気がすべて凝縮されています。
次にお店を訪れた際は、ぜひバーテンダーの「目線」や「手元」に注目してみてください。
そこには、言葉以上のメッセージと、最高の一杯を届けるための執念が隠れているはずです。