飲み会で

「金を使わず、気を使え」。正午から始まる飲み会が、私に教えてくれた「無意識のホスピタリティ」

著者: hik

正午、太陽の下で始まる「修行」

ホテルバーテンダーの勤務は、泊まり勤務が基本です。
夜通しカウンターに立ち、仮眠、仕込み、そして翌日の昼頃にようやく終業。
一般的なビジネスパーソンがランチを食べている頃、私たちの「一日」がようやく終わります。
そんな時、よく先輩たちに飲みに誘われました。
「お昼から飲み会?」と驚かれるかもしれません。
ですが、それは私たちにとって、仕事の緊張を解き、同時に「本当の仕事」を盗むための大切な時間でした。

先輩と飲み会

12時から22時。10時間のロングラン

飲み会は正午から始まります。

  • 1軒目(12:00〜):
    リーズナブルなランチやハッピーアワー。
  • 2軒目(15:00〜):
    別メンバーが合流し、賑やかさが増す。
  • 3軒目・4軒目・・・:
    17時、20時、22時。気づけば夜の帳が下り、街は仕事終わりの人々で溢れています。
    今振り返っても「長すぎる」と思うほどの時間ですが、当時はそれが本当に楽しかった。
    お酒が好きだったのはもちろんですが、何より先輩たちの懐に飛び込み、職人としての夢や将来を語り合える唯一の場だったからです。

「金を使わなくていい。そのかわり、気を使え」

この飲み会には、ある絶対的なルールがありました。
それは「後輩は1円も出さない」ということ。
先輩たちはいつもこう言いました。
「お前は金を使わなくていい。そのかわり、気を使え」
料理を取り分け、次の飲み物を察知し、先輩のグラスが空く前に追加のオーダーを通す。
灰皿の交換から、会話のテンポに合わせたお冷の準備まで。
「つまらなそうだ」と思うでしょうか?
確かに、最初は気を遣うことに必死で、会話を楽しむ余裕なんてありませんでした。

「無意識の気配り」への到達

何度も飲み会を重ねるうちに、変化が訪れます。
先輩と夢を語り、熱い議論を交わしながら、その「片手間」で完璧なタイミングで注文を通せるようになる。
意識せずとも、周囲の状況が解像度高く見えてくる。
これこそが、バーテンダーに求められる「マルチタスクな気配り」の正体でした。
お客様と楽しく会話をしながらも、手元では正確にカクテルを作り、バックバーの状況を把握し、別のお客様のグラスの空きを見逃さない。
時にはお酒を作るときの手際や手つき、ボトルの持ち方なども見られつつ教わることもあります。
あの過酷(?)で楽しい飲み会は、実戦形式のトレーニングの場だったのです。

飲み会で培った力

時代に合わせた「自分の形」を

今は、こうした濃密な飲み会文化は少なくなっています。
無理に参加する必要はないかもしれません。
ですが、先輩や仲間の懐に飛び込み、言葉以上のものを盗み、自分の「気配りの筋肉」を鍛える場を持つことは、どの職種においても普遍的な価値があるはずです。
形は違えど、新社会人の皆さんにも自分なりの「成長の場」を模索してほしいと願っています。

次回は、この「飲み会に参加することの具体的なメリット」について、もう少し深掘りしてお話ししましょう。